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僕は海、陸と共に最寄の街のとあるレストラン調の店に来ていた。店員は居ない。アイテムを買う店とは違う、ある種のおまけ、もしくは地形効果的な要素で組み込まれた店だろう。

 

街も店も日本風、2~3階建ての家が林立する居住区のようなところだった。

今テーブルに座っているのは僕と海の二人。陸は仲間に僕のことを伝えるから、と席を立っている。因みに「伝える」方法は聞かされていない。

「陸、遅いなぁ。」

もう既に30分が経過している。そんなに時間がかかる伝達方法なのだろうか。

間違いなく、第一印象から見てこういったことを伝えるのは海の仕事だろう。しかしそれを踏まえても陸が連絡役を受け持つ理由を、陸が来るまでの暇つぶし代わりに思考してみる。

まず、考えられる候補は三つ。一つは、それが陸の能力を利用したものであること。二つに、単純に海よりも陸がそのクラッカー同士において信頼が築かれていること。最後に、それくらいしか陸に出来ることが無い、だ。

・・・個人的には最後を推してみたい。いや、まぁ暇つぶしなんだし、それこそ真面目真面目に考える必要も無いだろう。

と、よしなしごとを考えているうちにドアが開き、陸が戻ってきた。

「ヘイ姐さん、今戻った。ホットでブラックなコーヒーでも頼むぜ。」

「誰が姐さんか。」

海が笑って、勢いよく自分のコーヒーカップを陸に向ける。無論、リアリティを追求したこのゲーム。コーヒーも味、温度、放物運動までもが全て厳密かつ緻密に、小さなものから大きなものまでリアルに再現される。

さすれば当然、慣性の法則に従い、コーヒーカップの中身は陸の顔面に・・・・・・

「ヤッダアバァァァァァァ!」

「遅すぎるのよ。どこで道草食ってたの。」

陸は顔を抑えて悶絶している。

「・・・アーユーオーケィ?」

反応が無い。

どうやらただの屍のようだ。

おお陸よ、死んでしまうとは情けない。

ふと外を眺める。どこまでも広がる青空。あぁ、綺麗だなぁ・・・ どこまでも飛んで行きたい。

「何一人で現実逃避してんのよ。」

「いや、別に・・・」

と、とりあえず・・・ 話を本筋に戻すのが僕の役割だろう。

「で、陸。僕の仲間入りは無事伝わったの?陸の上の人とか、反対しなかった?」

相変わらず陸は答えない。顔を抑えてうずくまり、かすかに振動を繰り返しているだけだ。

残酷なまでに陸を無視し、海が答える。

「それなら大丈夫ね。うちは陸がリーダー格みたいなもんだし。陸はこれで国内一二を争うレベルだもん。桃李言わざれども、下自ずから蹊を成す、ね。陸って何も言わなければそれなりの男だから。」

「そっちの意味で言わざれども、ね・・・。」

それじゃ寧ろマイナスイメージしか・・・・・・。

それにね、と海。

「実際、陸が直接連絡を取れるのは私とあなたを含めて13人なの。他は別系統、うちとは違うクラッカーチームなわけ。今回陸が自分だけじゃ手に余るって他のいくつかのチームに頼んだのよ。ま、一部を除いては殆ど入り際にチーム単位でシャットアウトされちゃったけど。」

「へぇ・・・。チームごとの明確な順位区分とかは?さっきの話じゃ陸が全体で見てもリーダー格みたいな雰囲気だけど。」

「そういうのは無いわね。陸個人はトップクラスだけどチームとしては横一線ってとこ。でもって、この世界に放り込まれたタイミングの所為か、チームメンバーの名前の傾向が偏ってて、私たちはその傾向に添ったチーム名でお互いを呼び合っているわ。私たちは自然系統に名前が偏ってるから、《ネイチャー》。他には《ツール》と《ウェポン》、そして、チームに属さず個人でクラッカーをやってる人の集まり、《シークレット》。あなたは偶然私たちと登録の時間が被ったからその名前が当てられたってわけ。」

「なるほど。ところで、何故製作者はそんなことをしたん?話の聞き方では通常プレイヤーは自由意志でIDを決められると聞こえるし、意図が全く掴めないんだけど。」

「そ、通常プレイヤーはIDを自由に決められるわよ。製作者の強制ID登録の意図は大きく分けて多分二つと推測されるわ。この世界では名は体をあらわす。つまり名前に添った武器が強制的に設定されるの。幸いなことに私たちは名前が名前だからその設定はは武器より能力に回されてる。あなたが空で能力が翼による飛翔みたいに、ね。」

名は体をあらわす、ね・・・。確かにぴったりな表現だ。ツールってチームの連中はかなり悲惨なのかもしれない。

・・・・・・ドライバー、とか?

かなり嫌だ・・・・・・。

「で、次が二つ目。これは開始後いきなり空が襲われた理由に直結するんだけど、製作者は私たちのIDを全てリストアップしてるのね。そしてそのリストのIDに当該するキャラを有差別的に攻撃するNPCをこの世界に大量に放ってるってわけ。」

へぇ・・・。ってちょっと待てよ?

偶然登録時刻と陸のチームのクラック時刻が同じだった、それだけで襲われたってことか?

めちゃくちゃとばっちりじゃねぇか・・・ 謝罪と賠償を請求汁。

「・・・あなたの言いたいことはよぉーく分かるわ。だけど逆に考えるのよ。『そうなったからこそ私たちに会え、なおかつ今回の件を知れた』と考えるのよ。」

「まぁ、そういえばそうっちゃそうなんだけど・・・」

「ええいグチグチ五月蝿いウジウジ女々しい!男ならちゃっちゃと順応しなさい!」

キレられた・・・。しかも微妙に男女差別。

確かに、こうなってしまえば既に後の祭り、こっちが嫌がっても向こうがNPCじゃ話し合いすら出来ないだろうし、ここはポジティブに考えよう。

「はいはい、分かったよ分かりましたよ。僕だって男だから腹ぁ括りますよ。是非微力を尽力させていただこうじゃありませんか。」

「分かればよろしい。それで、これからの私たちの行動予定なんだけど・・・」

「俺を無視するなぁーッ!」

そこに、いつの間にか復活した陸が間に割り込んできた。

「おい海!お前連絡を終えた俺にコーヒーをぶっかけるたぁどういった了見だ!」

「うっさいわね。今説明で忙しいんだから黙って座ってなさい。でないともう一回、今度は空のをぶっかけるわよ?」

「逆キレだー!ごめんなさい!」

早っ!切り替え早っ!そして海怖っ!

この人にはなるべく逆らわないようにしよう・・・

「で、さっきの続きだけど・・・」

もう反論はすまい。黙って静かに大人しく、時に相槌を打ちつつ話に耳を傾けよう。

「何か嫌なことを思ってそうね。まぁいいわ。まず私たちが何をすべきか、それはRPGに置ける常套中の基本、情報収集よ。現時点では私たちの勝利条件は三つ。一つは、私たちが入ってきた穴、通称ゲートを抜けて実世界に戻りここにウィルスを注入すること。入るときに分かったけど、ここは侵入に対するセキュリティを重視しすぎて破壊に対する防衛力が極端にゼロに近いレベルになってるわ。この世界が崩壊すれば精神は自然と肉体に戻る。そして第二に人工的にゲートを作り出す。これには多大な労力、そうね・・・ このゲーム内時間に換算すると大体三日分ってところかしら。その三日、寝ず休まずで中からツールを使ってクラックをかけるの。その間無論クラッカーは無防備だからかなり危ない手段ね。」

確かに、相手はこちらを襲ってくるのに何も出来ないのは辛いだろう。チーム13人が集まっても、敵だってその分1人のときの13倍に増えるのだから数の多少は関係ない。

「そして、第三にここのゲームをプレイしている製作者を倒すこと。これは製作者がプレイしていることが前提なのだけど、そこは気にしなくていいでしょうね。これだけのゲーム、製作者が登録してないわけがないわ。」

そんなもんなのかねぇ・・・

僕には分からない、そういう道の考えなのだろうか。

まあ、海がそういうのだからそうなのだろう。もし居なかったとしても第一、第二の方法があるのだから。

「無論、製作者は私たちの作ったゲートの場所も把握してるでしょうね。」

「だろうね。でもだからってどうするかは分からない。ゲートを消すわけには出来ないわけだろう?」

「そうよ。入らせないよう、徹底的にそこに防御を集中させるか。それとも、それだとあまりに露骨だから他と代わらない扱いをするか。そこは心理的な読みあいになってしまうわ。最悪囮なんてものもあるかもしれないし。」

そう、せっかく強力な防御網を突破して進んでも、その先にが何も無ければ骨折り損の草臥れ儲けだ。

そうすれば、考えられるのは第一か第二の方法なのだけれど・・・。

「そう、考えられるのは製作者を倒すことよね・・・」

「いや、違う違う!それは確率的に一番難しいところだよ!」

「何よ、冗談じゃない。だから情報収集なのよ。何処かNPCの数が以上に多い場所とか、私たちの侵入のせいで不自然なものがある場所とか、そういうものを探すのよ。」

「そっか・・・そうだよな。いくらなんでも冗談だよな。」

「当たり前じゃない。製作者は絶対に最強武器を装備しているわ。」

・・・そっちかよ!

どうやら製作者がプレイしているという考えは本気らしい。

「防衛NPCだって容量の都合上数も有限よ。作り出すのだって簡単では無い筈。つまり、破壊していけば第二の方法、ゲート作成もより易くなるって寸法よ。とりあえず半月後にもう一度陸がメンバー全員に集合場所を指示して情報交換を行う予定よ。」

「半月?このゲーム内の時間進行ってどうなってるんだ?」

「そうね・・・。約30倍ってところかしら。つまりリアルの一日がゲームで一ヶ月ね。脳にかかる負担も半端じゃないわ。持って一日ってとこ。だから半月で解明、もう半月で脱出ってわけ。説明は以上!」

一区切りが付いたので思考する。

思えば、とんでもないものに巻き込まれてしまったものである。試作PCのテストが命のやり取り、下手すれば人類の存亡にかかわる事件を未然に防ぐ仕事だもんなぁ・・・

でも、こういうのは嫌いじゃない。寧ろ退屈で代わり映えのしない日常に飽き飽きしていたところだ。

「うん、区切りがついた。じゃあ早速情報収集に向か・・・」

と、

突然、

店の入り口が、

吹っ飛んだ。

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